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溶接接合業界ニュース

大倉製作所、技能向上へ競技会活用

 クレーンは50年以上使用されるものも少なくない。長年にわたる重量物の搬送に耐えるため、クレーンの製造および据付工事、メンテナンスで使用される溶接品質に求められる水準は高い。この高度な溶接品質を支える溶接士の育成を図るため、大倉製作所大船工場(神奈川県鎌倉市、神奈川県溶接協会会員)では、神奈川県溶接協会が主催する溶接技術コンクールを活用する。「設置するユーザーの目的により可搬重量や吊り方などが異なることから、クレーンは受注生産による1品物。そのため自動化できる部分は限られており、溶接工程の8割は溶接士による半自動溶接となる」(尾茂田剛取締役)とする同社の取り組みを取材した。
 同工場で溶接を手掛ける鉄構グループには15人の溶接士が在籍し、全員がJIS溶接技能評価試験の専門級を取得している。クレーンのような大型の構造物を溶接する場合は炭酸ガス半自動溶接の中板や中厚板の適用が多く、同グループの溶接士も炭酸ガス半自動溶接の中板や中厚板の取得をしている。それらの資格に加えて、同グループの溶接士は被覆アーク溶接についても専門級を取得していることが特徴だ。一部の隅肉部分や十数メートルにもなる長尺の溶接には、走行台車型の自動溶接機が使われるが溶接士による溶接の割合が大きく、8割が人の手によって溶接されている。
 溶接部には長期にわたり重量物を搬送する高い品質が求められるため、同社ではその品質を支える溶接士の技能レベルを底上げするための取り組みを強化している。その一環として数年前から同工場に所属する若手溶接士が神奈川県溶接協会主催の神奈川県溶接技術コンクールに参加。同コンクールの練習と技能向上のため神奈川県溶接協会の高度熟練技能者が講習会を務める溶接実技講習も受講する。
 尾茂田取締役は「参加した選手は同コンクールに向けての練習や溶接実技講習で指導を受けるなかで、溶接に対する意識が明らかに変化した。考えながら溶接をするようになり、溶接技能も向上したと感じる」と述べた上で、「神奈川県溶接協会に所属する協会員企業の溶接技能は全国的に見ても高く、大会を通して他社の溶接教育への取り組みなどを見聞することができ、参考になる部分も多い」と同コンクールへ参加する意義を語った。
 同コンクールに参加しない溶接士も技能に対するアドバイスを参加選手に送るなど、溶接士同士のコミュニケーションが活発化し、職場内の技能伝承も円滑になったという。
 同工場では訓練専用の溶接ブースを設置しており、溶接評価試験の合格や更新や同コンクールでの飛躍に向けての練習に活用されている。溶接ブースには先代の生産部長であった小浜洋吉さんの教えである「溶接は人格だ」という標語を掲示。意味について尾茂田取締役は「人の人格のように、溶接部は人に見えない部分を含めて構成されている。人には見えないだろうと凡事徹底を怠れば、溶接部にも欠陥が生まれる。真剣に溶接に取り組めば溶接部として形になる。溶接に臨む際は常に細心の注意を払わなければならない」と解説する。
 同社が製造する天井クレーンは、一度納入されると部品交換や補修などのメンテナンスを施しながら長年使用する事業所も多い。クレーンのメンテナンスは高所で実施されるのに加えて、野外に設置されている場合もあり、安全性や作業効率から被覆アーク溶接を適用することが多くなる。また、同社では製造だけではなく現場での据付も行っているが、据付で溶接を使用する場合は被覆アーク溶接が多いという。そのため、被覆アーク溶接についても専門級を取得している。
 工場で天井クレーンを製造する際にはガーダーと呼ばれるクレーンのレールが敷かれる部分があり、内側に複数枚の補強板を取り付けるが、この溶接を溶接士が行う。SS400の中板(6―9ミリ)を炭酸ガス半自動溶接で溶接している。また、天井クレーンでは搬送物を持ち上げるためのフックブロックを取り付けた「トロリー」と呼ばれる装置がガーダー上のレールを横行するが、このトロリーに搭載する巻き上げユニットのパイプフランジと主軸の溶接部分は搬送物を持ち上げるための荷重がダイレクトに伝わる部分であり、溶接部には高い品質と信頼性が必要となる。同社では溶接士が溶接する部分はクレーンやジグを使用し、下向き溶接にすることで生産性と溶接品質を高めている。
 今後の事業展開について尾茂田取締役は「製造だけではなく、既にクレーンを稼働しているユーザーへのメンテナンス事業も重要になってくる。メンテナンスでは溶接以外の作業が多く、溶接に強い鉄構グループはメンテナンスにおいて他のグループより仕事量が少なくなる傾向がある。各グループ間の仕事量を安定化させるために、溶接技能向上に対する取り組みはもちろん多能工を目指す教育も力を入れることで会社全体の技能を底上げし、コロナ禍のような非常事態にも強いメーカーを目指したい」語る。同社は1932年の創業の老舗クレーンメーカー。「日本一のクレーンメーカー」を目標に、さらなる品質向上に向けて溶接技能と技術を底上げするための取り組みを強化している。


提供元:産報出版株式会社

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