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溶接接合業界ニュース

定着率向上を図る溶接事業所、人手不足や働き方改革に対応

 人手不足が深刻化する中、現在、働いている溶接士のモチベーションを高め、定着率の向上を図ることが重要性を増している。さらに、働き方改革関連法の施行により、労働環境の改善などの取り組みも求められる中、いかにして生産効率とのバランスを取っていくかが、大きな課題となっている。溶接士のモチベーションアップや環境改善に取り組む溶接事業所を追った。
 浜松市中区に拠点を置く大穂工業(山田雄三郎社長)は厚生労働省第一種圧力容器製造許可工場、経済産業省高圧ガス特定設備製造工場として圧力容器、高圧ガス特定設備、消防法危険物タンクなど各種容器の製造で高い実績を持つ。
圧力容器は、一品一様製品が多く自動化が難しい製品だが、同社では板を丸めた際の長手方向の突合せ溶接と、円筒部材に蓋をする際の円周溶接にマニピユレータを使用することで自動化を実現している。
ただ、マニピュレータによる自動化は、ロボット溶接のように無人というわけにはいかない。要求品質を確保するために溶接士が絶えず溶融池を観察し、ときどきトーチを微調整する必要がある。このため自動機と言えども溶融池の状況を見極めるための溶接技能が必要になる。また、全ての工程を自動化しているわけではないため、部品類の取付などは、溶接士の手で溶接する必要があるため、溶接技能は欠かせない。
 そこで、同社が溶接士のモチベーションのアップと溶接技能の維持・向上のために活用しているのが溶接競技会への参加である。同社では、入社10年以下の従業員は全員参加を基本方針としており、会社では必要な練習時間や資機材を確保するなど全面的な支援を行う。
これにより個々の技能向上を図るだけでなく、良好なチームワークも形成し、働きやすい職場環境の構築にも貢献しているという。
 埼玉県春日部市の渡辺建鉄工業は、若手社員に現場を任せ、その意見を積極的に取り入れることで若手社員のやる気を引き出す。
 同社は、Mグレードの鉄骨ファブリケータだが、仕事の7割が工事現場であり、およそ一日3現場に溶接士を派遣しているという。
 このため現場で仕事を進める上で判断を下す権限を若手社員に持たせるようにした。すると、周りの状況を見ながら、良く考えて仕事をするようになり、若手社員の成長が感じられるようになったという。
 また、他社の様子などにも目を配るようになり、若手の意見を取り入れて、小型溶接機やファン付き作業服などを導入した。さらに、現場間の連絡を容易にするために若手が中心となってLINEによるネットワークを構築。多忙な現場に人手を回すなどの臨機応変なスケジュール調整がやりやすくなるなど、若手の意見が大きな成果を挙げている。
 群馬県高崎市に本社を置く、精密板金事業者のモハラテクニカ(茂原純一社長)は、新入社員に対して最初にYAGレーザ溶接など自動機の操作を覚えさせ、できることを増やすことでやる気を持たせ、新入社員の離職率を大幅に低減させたという。
 同社では、人手不足を背景に積極的に自動化を進めているが、その一方で溶接士の高度な技能も欠かすことはできない。つまり、オペレータと技能者の両方を育成しなければならない。
 そこで、最初にYAGレーザ溶接の操作を覚えさせる。ビーム径が細いレーザ溶接機では、加工に適した0・1?単位の前工程(金属板の曲げ・折りなど)が必要となる。手作業では0・1?の金属板加工は難しいため、YAGレーザ溶接を覚えた新人は、CAD/CAMの知識を身に付けて自動曲げ機などの設備を操作する。
 さらに、溶接・板金・バリ取りなどの自動化設備を増やしていくことで、新人は構造物の状態を「熟練技能者の言葉」のではなく「装置の数字」で技能を把握できるようになる。
 つまり、自動化の設備により多くが数値化できる。また、数値で結果が出れば、技術を習得しているという実感が生まれやすいため、同社では新人の離職率も1割を切るようになった。そして、辞めなければ、自動機で培った数値をベースに技能も向上し、「いずれは優秀な熟練技能者に育っていく」とする。


提供元:産報出版株式会社

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