バーチャル技術を活用した溶接訓練システムが教育・訓練機関に導入が進んでいるが、技能レベルを競う溶接競技会の練習にも使われるようになってきた。高崎産業技術専門校(群馬県高崎市)は全国溶接技術競技会にも出場した経験がある溶接士が講師となり全国溶接技術競技会の出場を目指す企業を対象に「群馬県溶接技術コンクール準備講習会」を開催。溶接技能を「見える化」できるバーチャル溶接技術を高く評価して同システムを講習に活用した。
同講習会は5月12日から4日間、群馬県溶接技術コンクール(群馬県溶接協会主催)の競技課題を練習内容として実施。ガス絶縁開閉装置などの製造を行う日新電機前橋製作所(群馬県前橋市)に所属する溶接士が受講した。
講師は同校の溶接エキスパート科で職業訓練を受け持つ、テクノインストラクターの春山典之さんと小池千恵子さんが担当。春山さんは昨年を含めて群馬県溶接技術コンクールで4回優勝しており、今年4月に三重県で開催された第66回全国溶接技術競技会にも群馬県代表として出場。小池さんも第54回の同コンクールで入賞した実績を持つ。
今回、講習に使用したAR溶接システムは被覆アーク溶接や炭酸ガスアークなど様々溶接方法を一つのシステムで再現でき、溶接が点数化されるのが特徴。トーチ角度や速度、母材とワイヤ先端の距離、狙い位置なども記録できる。講習会では実際の溶接機で溶接する前のシミュレーションなどに同システムを活用した。
春山さんは「いきなり実機の溶接機で練習するよりも、同システムで技能を数値化し、癖をある程度把握した上で練習する方が、指導する側としても改善点は見つけやすいと感じる」とAR技術を活用する意義を語る。
実際に講習会を受講した日新電機前橋製作所の山内秀則さんは「トーチの角度と溶接速度やアーク長などは普段から意識しているつもりだが、具体的な数字を測ることは難しい。同システムでは自分の癖や傾向を詳細に数値化できることに関心した」と述べた。
その上で「角度や速度を矯正できたという実感はある。特に溶接速度については若干遅いということが同システムで可視化されたことで大きく改善できた」と山内さんは成果を語る。
春山さんは「本番直前に同コンクール向けの講習会を開催するのはライバルに塩を送るようなもの」と冗談交じりに苦笑しつつ、「溶接技能は共有財産。自分だけが上手くなれば良いものではなく、皆で切磋琢磨しながら高めあうことが、溶接産業ならびに、ものづくりや地域の発展につながる」と述べた。
提供元:産報出版株式会社