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溶接接合業界ニュース

ナカテック・水素社会を支える溶接技術

 カーボンニュートラル社会の実現を目指して燃料電池自動車をはじめとするクリーンエネルギーとして水素に大きな注目が集まる中、水素ステーションの配管などで溶接技術が大きな役割を果たしている。高圧ガスプラント設計製作・検査などを手掛けるナカテック(福井県坂井市、中山浩行社長、福井県溶接協会会員)は市内にあるグループ会社のパイプラント、日本海産業と連携し、高圧水素用ステンレス鋼管「HRX19」に対応した溶接士による溶接技術の確立に成功した。同社技術開発研究所の羽木秀樹所長は「水素ステーションを安全で長期にわたり持続可能なインフラにしていくためには配管溶接などのメンテナンス技術が重要となる。そのためにはコストパフォーマンスが良く汎用性の高い溶接技術が必要だ」などとし、今後の展開に大きな期待を寄せる。
 今回の研究により高圧水素環境化の鋼管に必要とされる70メガパスカルに耐える溶接を人が行う技術としての目途がついた。今後は水素ステーションなど高圧水素を利用する施設を持続可能なインフラ設備として運用するためのメンテナンス技術としての活用が期待される。
 溶接技術の研究で用いたHRX19は高圧水素の環境において溶接による接合を可能にする溶接材料として日本製鉄が開発し、水素社会実現に向けて多くの水素ステーションに採用されている。
 ナカテックの羽木所長は同社に入社する以前から、福井工業大学で教授を歴任するなど長年にわたりエネルギー分野で使用される金属材料の研究に携わり、ステレンス鋼へ水素が与える影響などの研究も行っていた。
 「HRX19は水素ぜい化に強く、溶接による軽量化や鋼管の水素漏れのリスクを大幅に低減できるということから、水素社会の実現に向けて水素エネルギーのさらなる活用を推進できる鋼管の材料だ。一方で実際の現場でおきる劣化や腐食の研究やそれに対するメンテナンス技術の確立が必要だと考えていた」と羽木所長は開発の経緯を語る。
 近年、国内では各地で水素ステーションの新設が進んでいる。月日を経ることで鋼管の老朽化や経年劣化が進むほか、突発的な不具合などで即急な溶接によるメンテナンスが必要となるケースも出てくる。現在、HRX19の溶接技術は自動溶接を中心に研究を進んでいるが、メンテナンスでは溶接士による溶接が必要となる場合もある。
 ナカテックのグループ会社であるパイプラントはプラントエンジニアリング会社として現場において補修のための配管溶接を行う案件を多く手掛けており、水素ステーションにおけるメンテナンス事業を本格化していくために、汎用性やコストパフォーマンスの高い溶接技術の確立を目指していた。
 「現場における配管溶接では狭い箇所や入り組んだ構造をしている部分など自動溶接が難しい部分は溶接士によって溶接を実施する部分も多い。そういった箇所で水素ステーションにおいても補修溶接が必要となった時の技術を確立したいという思いがあった」とパイプラント・プラント工事部の北本秀範部長は語る。
 ナカテックが溶接技術の開発研究を主導し、HRX19と同じステレンス鋼であるSUS316Lの鋼管(外径17・3?、肉厚1・6?5?)を入手。溶接技術の確立が進んでいるSUS316Lと対比させながらHRX19の研究を推進した。溶接はパイプラントの溶接士がティグ溶接で実施した。
 検査は保安検査機関かつ高圧ガスプラント認定検査会社である日本海産業が担当。光学顕微鏡、高分解能走査電子顕微鏡、蛍光X線分析による溶接部の組織観察と溶接欠陥の検出を行い、超微小荷重マイクロビッカース硬さ試験機による硬さ測定を行った上で、溶接した試験片での引張試験、漏れ検査、耐圧検査を実施。各社の知見を出しあいながら研究を進め、70メガパスカルの高圧環境に耐える開先形状、溶接電流や速度などの条件を導き出し、溶接士によるティグ溶接に成功した。
 最適開先加工角度について北本部長は「HRX19はSUS316Lと比較すると溶け込みが悪く、肉厚3?以上の鋼管溶接では溶け込み不良が起きていた。開先加工角度を36度とったところ、安定した溶接が可能になった」と振り返る。
 溶接する速度は溶け込み具合に留意し、試行錯誤を繰り返すことで適切な速度を導き出した。適正とされた速度で溶接を実施し、フィラーを正確な角度かつ適切なタイミングで加えることを可能にしたのはパイプラントの溶接士が持つ溶接技能の高さだ。
 今回の研究ではパナソニック製の溶接電源 YC―500BP4を用いて溶接を行った。「高額な自動溶接機や特別な装置を使用しなくても、市販されている国産メーカーのティグ溶接機を用いて、溶接士によってHRX19を溶接できる技術が確立したことは当社やグループ内だけでなく、国内にある多くの溶接事業者が水素エネルギーに関連するメンテナンスに関われる可能性を示唆できた」と羽木所長は研究の意義を語る。
 今回はHRX19が受注生産品で入手が困難なこともあり、技術を確立できた鋼管のサイズに限りがあった。その上で羽木所長は「今後は実際の水素ステーションで使用される鋼管のサイズや環境を調査し、使用頻度の高いサイズや環境下における溶接技術の研究を進めながら対応する技術のバリエーションを増やしていきたい。同技術を用いた事業を10年以内に当社の柱となるような事業にできれば」と今後の意欲を語った。


提供元:産報出版株式会社

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